AUG. 29 2025
援助関係について

Biestek(1957)は援助関係について、「ケースワーカーとクライエントとのあいだで生まれる態度と情緒による力動的な相互作用である。そして、この援助関係は、クライエントが彼と環境とのあいだにより良い適応を実現してゆく過程を援助する目的をもっている。」 (p・17)と述べている。援助関係とは単なる人と人との関係ではなく、クライエントのエンパワメントを目的として構築されるクライエントと支援者との専門的な関係であり、クライエントが安心して支援を活用できることを目標とした関係である。
そして、この関係の中ではクライエントと支援者の情動と態度の力動的な相互作用がある。その相互作用は、①恐れや不安を抱きながらも、個別化や自己決定などのBiestek(1957)が分類したクライエントの7つのニーズがクライエントからワーカーに発信される,②支援者がクライエントのニーズや感情を察して意味を理解し、適切に反応する,③支援者がクライエントを理解しようとする姿をクライエントが理解し、それを伝えようとする,の3つの方向性がある。この相互作用の中で、クライエントのニーズに関する7つの原則が1つでも欠けている場合、支援者はクライエントと良好な援助関係を構築することが難しくなる。さらに、もしクライエントのニーズや感情に対して支援者が適切な反応を返さなければ、クライエントは支援者に対して不信感を抱くことがある。そのため、援助を行う上で、クライエントとの良好な援助関係を構築することが求められている。
Rogers(1957)は、カウンセラーに求められる態度として「無条件の肯定的態度」「一致」「共感」を提示した。無条件の肯定的態度とは、クライアントの語りや存在、考え方など、クライエントの存在を受け入れるということである。そして、支援者がクライエントの怒りや恐れ、混乱を自分自身のものであるかのように感じ、その中に支援者自身の怒りや恐れ、混乱を巻き込まないプロセスが共感である。しかし、この際に支援者が自身の価値観や偏見などによってクライエントへの共感的理解が困難になる場合がある。例えば、支援者がクライエントと関わる中で、「早く終わってほしい」「この人とは合わない」といった感情を抱きつつも、「なんでも話してください」というアンビバレントな態度を示すことがあり、この状態が不一致である。そのため、森岡(2000)が「クライエントの言表を傾聴すると同時に、自らの体験過程にも耳を傾けておく」(p・153)と述べているように、支援者はクライエントと援助関係を構築する上で、クライエントとの声と自身の体験の両方に注意を向ける「二次方向に向かった注意力」(p・153)が求められている。支援者は自身の信念や価値観、態度、経験が自身の援助能力に影響を与え、無意識のうちにクライエントを無力化していないか自己省察を行う必要があるのである(Levenson, 2014: 8)。
引用参考文献
Biestek,Felix Paul(1957)『The casework relationship』Loyola Univerasity Press.(尾崎新,福田俊子,原田和幸,訳(2006)『ケースワークの原則』誠信書房.)
Carl R. Rogers(1957)「The necessary and sufficient conditions of therapeutic personality change」『Journal of Consulting Psychology』21 (2), 95-103.(H.カージェンバウム,V.L.ヘンダーソン(2001)『ロジャーズ選集-カウンセラーなら一度は読んでおきたい厳選33論文』誠信書房.)
森岡正芳「いま、私にとってのロジャース-非人称(Impersonality)の視点-」氏原寛,村山正治(2000)『ロジャース再考 カウンセリングの原点を探る』培風館.
Levenson,J.S.(2014)「Incorporating trauma-informed care into evidence-based sex offender treatment」『Journal of Sexual Aggression』20,9-22.